身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「ありがとうございます」

とっさにグラスを受け取ると、「料理も何か取ってこよっか?」と笑顔を向けられた。けれどさすがにそれはお断りする。

「すみません、お気持ちだけ頂戴いたします」

「えー、つれないね。君は彼みたいな人がタイプなの? 熱心に見つめてたよね」

自己紹介をすることなく畳みかけられ、私は困った顔になった。とても馴れ馴れしい方だけれど、主催者である菖悟さんの友人とどういう関係なのだろうか。私も今さら菖悟さんの妻だと名乗るのは気まずかった。

「えっと……」

「妻が何か?」

凄みのある低い声が聞こえて振り向くと、真後ろに菖悟さんが立っていた。男性を牽制するように、私の腰にさりげなく手を滑らせる。

「菖悟さん」

いつの間に輪の中から抜け出してきたのだろう。こちらに向かっていたのさえ気づかなかった。

「えっ? 君、高須賀さんの奥様だったの?」

目を白黒させた男性に、私は小さく頷いた。すると彼は一瞬顔を引き攣らせたのち、菖悟さんの機嫌を取るように笑ってさっと身を引く。そしてすぐにどこかに消えてしまった。

逃げ足の速さに、私は呆気に取られてしまう。
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