その手をつかんで
「今、野崎さんと仕事の話してるから、遠慮してもらえないかな?」

「あら、休憩中じゃないの? じゃあ、専務室で待たせてもらうわ」

「は? 勝手に入らないで」


ゆかりさんが立ちあがると、蓮斗さんも立った。蓮斗さんは食べ終えていた食器を私に向ける。


「申し訳ない。片付けてもらってもいい?」

「はい」

「ごめん、あとでまた話しさせて」


蓮斗さんは頷く私に目を細めて、微笑んだ。

それからすぐに表情を引き締めて、ゆかりさんを見る。


「あまり時間ないけど、話聞くよ」

「ふふっ。やっぱり蓮斗さん、優しい。ありがとう」


ゆかりさんはご機嫌に蓮斗さんの腕に手を回した。蓮斗さんはうんざりした顔をしたけど、その手を払いのけない。

私は食器を持って、厨房に入る。バイトの女性が興味津々な顔で、トレイごと受け取った。


「先ほどの女の人、リリス病院の先生ですよね?」

「はい、そうですね」

「女優さんみたいにきれいな方ですね! 専務と並んでいると、ドラマのワンシーンみたいで素敵ー」

「そうですね……」
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