その手をつかんで
そうですねとしか言えない私

誰が見ても、ふたりは美男美女でお似合いなのだろう。製薬会社の後継者と病院院長の娘、容姿だけではなく家柄的にもつり合っている。

ふたりが付き合っているといえば、誰もが納得する。ゆかりさんが婚約者なら、蓮斗さんのお父さんは喜んで受け入れるだろう。


「でも、野崎さんと専務もお似合いだと思ったんですよ。もしかして野崎さんを好きなのかなと思ったけど、そんなことあるわけないですよね」

「ええ、そうですね」

「やっぱり私たちには手の届かない人ですものね。現実をしっかり見ないといけないですね」


彼女はあっけらかんとした感じで笑ったけど、私は笑えなかった。

蓮斗さんと私では違うと自分でも思っていたけど、人から言われるとなぜ胸が痛むのだろうか。

手の届かない人を想っても辛いだけなのにな。

想いたくない、好きじゃない……と何度自分に言い聞かせたことだろう。


翌日も蓮斗さん社食に来たが、どことなく表情が暗い。珍しいと思いながらも、いつもと同じように呼ばれたから彼の前に座る。
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