その手をつかんで
蓮斗さんが社食に来れないという朝、会社のロビーで姿を見かける。ちょうど出勤時間だったからか、多くの社員が社長と蓮斗さんに朝の挨拶をしていた。

私はその中に埋もれるように、ひっそりと様子を窺う。

蓮斗さんはニコニコ顔の社長に反して、無愛想顔。彼が言っていたイヤなことは、社長と出掛けるところだったみたいだ。

どんな用件かは知らないが、朝早くから外出とは会社に来たのも早そう。

早起きしたのかもしれない。眠くて、機嫌が良くないのかな。


「リリス病院に行くらしいわよ」
「もしかしてあの噂? とうとう結婚?」
「おめでたいわよねー。大病院と繋がりができたら、うちは安泰だもの」


リリス病院に行って、結婚の話?

そんな用件だったとは驚きだけど、社員にも歓迎される話だ。

ゆかりさんとの縁談、蓮斗さんは気乗りしていない。だけど、蓮斗さんは優しいからゆかりさんを傷付けてようとはしない。

もし縁談が成立したら、ちゃんとパートナーとして受け入れ、愛するようにする。ゆかりさんはきれいな人だし、スタイルも良い。

彼女に惹かれる男性は多いに違いない。だから、蓮斗さんも……。

蓮斗さんとゆかりさんが築く幸せな家庭を想像した。
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