その手をつかんで
「野崎さん、無理しないでね」

「はい」

「それにしても、そろそろ専務の結婚も決まりそうね。いろんな人と噂あったけど、やっぱりといった感じよね」


小川さんの発言に杉田くんが相づちを打った。


「落ち着くところに落ち着いたというか、まあ俺たちとは住む世界が違いますよね」

「そうそう。専務に見初められようと必死になっていた人もいたけど、相手にされないわよねー。夢を見るくらいならいいけど、本気になっちゃダメね」


本気で好きになってはいけない人。蓮斗さんの言葉に偽りは感じなかったから、真に受けそうになった。

いけない、いけない……本気にしてはダメ。好きになっても、手が届く人ではない。

もう何度自分に言い聞かせたかわからない。私は身を引き締めるよう拳に力を入れた。

向き合って話をしようと決めたけど、もうわざわざ話す必要はないのかも。

彼がゆかりさんを選んだのなら、それでいいから。

しかし、断るよりも先に蓮斗さんから連絡が届いた。

約束したのだから、行くべきよね……。ゆかりさんとの結婚の報告かもしれないけれど。
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