その手をつかんで
でも、少々意地悪な彼も悪くないと思ってしまう私は、早々と彼に惹かれているのかもしれない。

あんなにも緊張していたのに、すっかり馴染んでいるというか親しみを感じている。

お金持ちで大人な蓮斗さんは私と住む世界が違うと思っていたけど、こんなふうに過ごしたことで壁がなくなっているように思えた。

彼に本気の恋をしてもお試しで終わってしまうのに……このまま付き合ったら、辛い思いをすることになり……良い思い出で終わりそうもない。

傷つくことが前提の恋をする勇気なんて、あるわけがない。今ならまだ大丈夫、かすり傷になるかならないか程度だ。

自分の立場をしっかりとわきまえたうえで今日限りにすると、決心した私はコーヒーを飲み終えたところで、蓮斗さんを真っ直ぐと見据えた。


「今日はありがとうございます。とても素敵なところで、美味しいものを食べさせていただき、楽しい時間でした」

「うん?」


私がなにを伝えようとしているのか、まったく予測出来ていない様子の蓮斗さんは小首を傾げた。そういう姿も素敵だな……じゃなくて……「コホン」と軽く咳払いして、再度口を開く。
< 24 / 180 >

この作品をシェア

pagetop