その手をつかんで
裕福な家に生まれたからと良いことばかりではないのだろう。それなりの苦労もあっただろうし、イヤな思いをしたこともあっただろう。

私はごく普通の家庭に生まれたけど、不幸だと思ったことはない。もちろんイヤなことはあったけど、良いこともあった。

そういう部分では人間、誰しもが同じだ。


「親の跡を継ぐことは生まれた時から決められていて、自分が選んだ道ではなかった。それでも期待に応えようと勉強もしたし、マナーとかいろんなことを学んだ。だから、この先人生を共にする人は自分で選びたいと思うんだよね」

「そうですね、その気持ちはわかります」


私も結婚する人は自分で選びたい。心から好きになった人と結婚したい。でも、結婚は当人だけの問題ではない。

特に蓮斗さんは、背負うものが大きい。


「絶対にイヤだと言われたら諦めるしかないけど、もう少し時間をくれないかな? 明日花と一緒に過ごす時間を」

「私と過ごす時間ですか……絶対にイヤだとは言えないです。でも……」


過ごす時間が増えたら、私は彼を好きになってしまいそうなのだ。
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