その手をつかんで
今年も残りは、あと二か月。一年が過ぎるのは早いけど、今年はいろんなことがあったかも。セットで頼んたバタークッキーを口に放り込む。

口の中をいっぱいにさせていると、突然横から呼ばれた。


「明日花?」


え、この声は……。

「うぇ、んんんん」


クッキーをまだ飲み込めていない私は、言葉にならない返事をした。


「大丈夫?」


蓮斗さんに心配され、頷いてから紅茶を飲んだ。そして、改めて彼を呼ぶ。


「蓮斗さん」


下の名前で呼ぶのは久しぶりだ。


「ここ、座らせてもらうね」


蓮斗さんは私の了承を得ないで、斜め向かい側に座った。

セイロンティーをオーダーしてから、私に微笑む。


「まさかここで会うとは思わなかったな」

「私もです」

「これから瑠奈のところに? それとも行った帰り?」

「行った帰りです」


蓮斗さんは行く前だという。知っていたけど、知らないふり。

手土産を買いに来て、まだ時間があるからとここで休憩しようと来たそうだ。

まさか休憩に同じ場所を選ぶとは、とんでもない偶然だ。他にもカフェはあるのに。
< 98 / 180 >

この作品をシェア

pagetop