オオカミ社長の求愛から逃げられません!
「ほら、藤堂さんもグラス持って。乾杯しよ!」
「は、はぁ……」
もうここまできたら後戻りするのは無理だ。適当に付き合って、少ししたら帰ってもらおう。
「乾杯~」
何に乾杯なのかもわからず、グラスを傾ける。私達は友達でも何でもないわけだし。妙な構図に、ちょっと顔が引きつってしまう。
「ねぇ、これ見てよ」
一口ワインを含んだ西園寺さんが、手に着いた指輪を目の前に突き出してきた。
「誕生日に買ってもらったの。希少なエメラルド」
「綺麗ですね」
「いいでしょ? 羨ましい?」
「えぇ、まぁ」
とは言ってもよくわからないし、宝石にはあまり興味がない。そのせいか反応が悪かったようで、西園寺さんはちょっとムッとしたように見えた。もっと褒めなきゃダメだったかな。
「八神さん、いつ帰ってくるの?」
「来週です」
「ふーん、じゃあそれまで一人なんだ」
「はい」
「八神さんてすごいわよねー。あの若さで社長でしかも業績はうなぎのぼりっていうじゃない? うちのお父さんも大したもんだって言ってた。だからどうしても私と結婚してほしかったみたいだけど」
「そうんなんですね……」
そういえば私、よく考えたら晴くんの仕事についてあまり知らないかも。何をしているのか、ちゃんと聞いたこともない。