ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

わたしは近くにあった松葉杖を引っ掴むと、おぼつかない足取りで玄関へと向かった。


いったい誰だろう。

ここ最近、わたしの家に誰かが訪れることなんてなかったから……。


不思議に思いながら、ガチャ、とドアを開けて——、


「……え?」


ひとつ隣のドアの前に立っていた人が、音に導かれるようにこちらを見た。

覗かせたわたしの姿を見て、困惑した声をこぼす。

思いがけない人物に、わたしも目を見開いたまま、固まってしまった。

心臓が、ドクドクと嫌な音を立てていた。


「……康晴……」


なんでここに、とほとんど呟くように尋ねると、康晴は揺れる瞳を手元に落とした。


「えっと……捻挫じゃなくて、骨折してた、って美月から聞いて……。お前のクラスのやつらが、打ち上げに来れない代わりに、って差し入れを……」


康晴の左手には、お菓子が詰め込まれたレジ袋がぶら下がっていた。
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