ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
大げさに痛がってみせる萩原を、ふん、と鼻で笑う。
しばらく恨みがましい視線をこちらに送っていた萩原だったが、ふと俺の後ろを見て、途端に顔を緩めた。
「相変わらず仲良しだね」
突然聞こえて来た声に、振り返る。
「……杉本さん。お疲れ様です」
「お疲れ様」
いつの間に戻って来ていたのか、先輩の杉本さんが俺の後ろに立っていた。
楽しげな笑みをこちらに向けながら、隣の座席に腰を下ろす。
……変なところを見られてしまった。
「なんの話してたの?」
聞かれて、俺はくだらない話ですよ、と誤魔化した。
けれど萩原がニンマリとした怪しい顔で、俺の肩に腕を回してくる。
「聞いてくださいよ、先輩。樫葉のやつ、とんでもなくシャイなんですよ。女の子慣れしてないからって、今日の歓迎会も渋ってるんです」