ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


……耳、かわい……。


赤く染まったそこに舌を這わせて、噛みつきたいという衝動を、なんとか抑え込む。

そんな心の内側をキレイに隠して、俺はくすくすと笑った。


耳元に口を寄せて、


「……お前、真っ赤」


わざと囁くように言った。


「〜〜っ」


返ってきたのは、予想通りの面白い反応。

愛花は片耳を押さえながら、勢いよく立ち上がった。

涙の溜まった抗議の目をこちらに向けてから、パタパタと廊下に逃げて行く。


「お風呂はいってくる!」

「はいはい。いってらっしゃい」


愛花の背中はすぐに見えなくなって、空間を区切ろうと乱暴に閉まった扉を、俺は笑顔で見届けた。


……そのまま体を倒していって、ぽすんっ、とソファに頭を乗せた。
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