ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


「——本当に、ごめん。最低なことをしたと思ってる。反省してます」


こちらに向かって頭を下げる康晴に、心苦しさで、呼吸が重くなる。


「……康晴」

「お前は悪くないよ。……なにがあっても、あんなことだけはしちゃいけなかった」


わたしは何度も首を振った。

一昨日に康晴が見せた、苦しそうな顔が蘇る。


「もう、いいよ。気にしてないから……だから……ね、お互いに忘れよう?」


康晴が、頭を上げた。

必死に言い聞かせるわたしを見つめて、困ったように微笑んだ。


……わたしは心のどこかで、当たり前のように、仲直りはできるものだと思ってた。


けれど、向けられる康晴の静かな視線に、言葉を続けられなくなってしまう。

儚げなそれが、わたしの胸に染み込んで、その奥にある光に影を落としていった。

< 314 / 405 >

この作品をシェア

pagetop