ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
そして、
「——無理だよ」
とうとうはっきりと言葉にされ、わたしの淡い希望は、打ち砕かれた。
「俺は、忘れられない」
「……な、なんで……」
「……好きだから」
康晴は、ゆっくりとこちらに近づくと、今度はわたしの前の席に座った。
机の上に置かれたわたしの手に触れて、ぎゅっと握られる。
まるで、いつかを思い出すようなこの状況に、心が落ち着きをなくし出した。
「……1年のころから、出会ってわりとすぐの段階で、好きになった」
そっと口を開いた康晴に、わたしは息をのんだ。
……これは——。
「クラスが一緒だったときは、誰よりも俺が一番近くにいられる自信があった。……けど、2年になって、クラスが離れて、焦った」
……これはあの日の、やり直しだ。
「……こんなことなら……もっと、早くに言えばよかった」
悔やむように目を閉じた康晴は、ふう、と息を吐いた。
握られた手は、……あの日と同じように、とても熱い。