転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「……まさかとは思うが、やけぼっくいに火がついた、なんてことはないよな?」
「あたりまえだ」


 冷水の入ったグラスを手にこちらへ顔を向けることもなくつぶやいた仁に、春人も厚揚げ豆腐を口に運ぶ手を止めぬまま即座に返す。

 一見普段と変わらない無表情に思えるが僅かに眉間にシワを寄せている春人を確認して、仁は気が抜けたように笑った。


「そりゃそうか。ハルは、結乃さん一筋だもんな」
「前から思っていたが、いつ俺が結乃のことを名前で呼んでいいと許可した?」


 言葉とともにジロ、と圧のある眼差しを向けられた仁が、心底面倒くさそうに顔を歪める。


「うへぇ、嫉妬深い男は嫌われるぞ……」
「余計なお世話だ。だいたいおまえがレイラを連れてくるから、ややこしいことになったんだが」
「だってあの魔女、ないがしろにしてるとあとがこえぇし」


 肩をすくめてそんなことを言う隣の友人に、深いため息を吐く。

 心当たりがありすぎるからこそ、春人はこれ以上何も言うことができない。さっきの、彼女の言動も──戯れにしては、あまりにも悪質だ。


《今度こそ、おまえのすべてで結乃を繋ぎとめろ》


 なぜか不意に、春人の脳裏をそんな言葉がよぎった。

 このセリフを言ったのは、一体誰だったか──言葉自体はハッキリと思い浮かぶのに、これを自分に伝えた“誰か”の声が曖昧で、わからない。

 だが、と、春人は強く想う。


(……言われるまでもない。俺は絶対に、結乃を離さない)


 今夜は彼女も職場の飲み会に参加すると、メッセージが届いていた。今は、どうしているだろうか。

 自分に向けられる花のようなあの微笑みに、早く、また会いたかった。
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