転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「はあ……」

 この数十分の間に、どれだけこんな吐息をこぼしたろうか。わかりやすく気落ちした深いため息が、ひとりきりの広い家の中に虚しく溶けた。

 少し前にこの自宅マンションへと帰ってきてから、手洗いや最低限の片付けのみを済ませて……その後結乃は、ソファーにもたれて動けずにいる。

 頭の中をぐるぐると巡るのは、先ほどタクシーに乗る直前に見た、自分の夫と美しい女性が並んでいる光景。


(春人さんと赤坂レイラさんは、本当に知り合いだった……)


 そして今夜、どういった経緯かはわからないが、ふたりは会っていた。
 春人からの連絡では、飲みに行くのは仁とだったはずだ。

 ……もしかして、仁も含め3人共通の知り合いなのだろうか。だとしたら腑に落ちるが、それが正解だからといって胸のモヤモヤが消えるわけではない。

 前回偶然レイラと出会ったとき、彼女の口振りには『春人とはそれなりに親密な関係なのではないか?』と匂わせるものがあった。

 そんなふたりが、今、一緒にいる。先ほど実際に目撃してしまった光景も相まって、結乃は動揺する心を抑えきれない。

 そのときだ。静まりかえった室内に、ドアチャイムのピンポーン、という間延びした音が響いた。結乃は反射的に、壁かけ時計に目を走らせる。


「9時半……」


 こんな時間に、誰だろうか。もしも春人が帰ってきたのなら、彼がわざわざインターホンを鳴らすことはない。

 重い動作でソファーから立ち上がり、リビングの出入口近くにあるドアホンに映る人物を確認する。

 そうして結乃は、目を丸くした。


(赤坂さん……?!)


 ディスプレイのサイズはそれほど大きくないが、だからといって見間違えるはずもない。

 ちょうど1週間と、そしてつい先ほど──姿を見かけた絶世の美女が、まっすぐにカメラのこちら側を見つめて立っていた。
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