転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 コクリと生唾を呑み込んで、結乃はそっと通話ボタンを押す。


「……はい」
《こんばんは、夜分遅くに失礼します。こちらは黒須さんのお宅で間違いないですか?》
「そうですが、何か」


 結乃が震えそうになる声を隠して受け答えると、ディスプレイの中のレイラが大きな目を細めて小首をかしげた。


《私はご主人──春人さんの友人で、赤坂レイラといいます。彼の忘れ物を届けにきたの。開けていただけるかしら?》


 そう言って艶然と微笑む自信に満ちあふれた眼差しのレイラに、結乃はうなずく他ない。


「……わかりました。少々お待ちください」


 ドアホン越しに答え、エントランスへと続く自動ドアを解錠する。

 そうしてしばらくしたのち、再びドアチャイムが鳴らされた。ドアホンでレイラの姿を確認した結乃は玄関へと向かい、内側からロックを外してドアを開ける。

 ゆるく波打つ長い髪を片側に流し、ベージュのスキッパーブラウスに白のタイトスカート姿のレイラが、美しく微笑みながらそこに立っていた。


「本当に、あなたが春人の奥さんだったのね」


 結乃の顔を見るなりつぶやいた彼女に、震えそうになる声を必死に繕って言葉を返す。


「あの、どうしてここが……」
「直接春人に聞いたの。まだ彼は帰っていないのね」


 さっきまで一緒にいたのよ、とサラリと告げる何の悪気もなさそうな笑顔が、胸を突き刺した。

 ……落ちつけ。落ちつけ。
 心の中で言い聞かせながら、なんとか唇を動かす。
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