転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「いえ、そう言ってもらえてよかったです」


 結乃は結乃で、あげる前に抱いていた不安や緊張が春人の反応を見た瞬間どこかへと飛んで行き、ホッと胸を撫で下ろした。


(今まで一緒にした食事で、デザートも普通に食べてたもんね。前世でも、甘いものは好きみたいだったし……思いきってあげて、本当によかった)


 自分たちの結婚は、恋愛感情を必要としない打算的なものだ。

 再会したあの日、春人から紛らわしい言い回しでプロポーズをされたときは混乱したが、よくよく話を聞いてみればそれは契約結婚の提案だった。

 年齢や立場的なものから持ち込まれる不本意な縁談に、辟易していた春人。そして結乃に同族の匂いを感じたらしい彼は、手っ取り早い解決策を思いついたのだろう。
 それが互いに相手を利用し合う、見せかけの結婚である。

 記憶がなくとも、もしかしたら無意識のうちに前世の知り合いである自分に縁のようなものを感じたのかもしれない。
 表向きは初対面の結乃にこんな話を持ちかけた春人は、きっと相当ストレスが溜まっていたのだろう。今世でもかなりモテるだろうに、相変わらず難儀な性格だなと同情すら覚える。

『結乃が欲しい』やら『逃がしたくない』やら、普通の女性ならば完全に勘違いをしてときめいてしまうセリフをいろいろささやかれ、危うく自分も絆されかけたが……あれらの発言もすべては今の面倒な現状から抜け出したいがためにこぼれた、他意のないスカウトの口上だったのだろう。
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