転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 だけど、今。久しぶりに彼の声で呼ばれた自分の名は、泣きたくなるほどあたたかな気持ちを胸いっぱい満たしてくれる。

 ランタンを持つ手とは反対側、すっと目の前に差し出されたハルトの右手を、ユノは反射的に握り返していた。


「っひゃ!?」


 握手だと思い重ねた手に力が加わり、不意に強く引かれて前につんのめる。

 倒れ込んだ先にあったのは硬い石畳ではなく、ハルトの白い団服だ。そのままたくましい腕に閉じ込められてしまったユノは、唖然としながら彼の胸板にしがみついていた。


「は、はる……」


 鍛えられた身体にすっぽりと囲まれ、一気に体温が上がる。勉強や仕事ばかりで恋愛経験など皆無な彼女に、いくら幼なじみとはいえ若い男とゼロ距離なこの状況は、あまりにも刺激が強すぎた。

 しどろもどろ名前を呼びかけたユノをさらにきつく抱きしめ、ハルトは赤く染まった耳に唇を寄せる。


「──無事で」


 小さなそのささやきに、目を見開く。

 いつもは無感情な、聞き慣れているはずの声だ。それが今は僅かに震えているように感じて、不覚にも目頭が熱くなった。

 たった、ひとこと。けれど充分に、ユノはハルトの想いを感じ取る。
 まぶたを下ろし、そっと控えめに、自分を包む大きな身体へ同じように手を回した。


「……うん。ハルトも」


 応えると、腕の力がまた強くなる。

 ピタリと頬を押しつけた胸板から聞こえる少し速めの心音が、どうにもユノを泣きたくさせて困った。

 美しい月が空に浮かぶ夜のこと。まるですがりつくような苦しいくらいの抱擁は、幼なじみとの絆をたしかに感じさせたのだった。
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