転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「はあ……」

 ウォークインクローゼットに置いたチェストからパジャマや下着を取り出しながら、自然とため息が漏れた。

 今日一日、ずっと気にしないようにしていたけれど……ここまで来ると、さすがに意識せざるを得ない。


(やっぱり今夜……“する”、よね……?)


 自分で考えて、頬が熱くなる。

 結婚してから初めての夜。普通に考えて、今日が初夜になるのだろうと心構えはしていたつもりだった。

 だけどいざ、それを目前に控えると……緊張や照れくささから、鼓動が速まって落ちつかなくなる。

 何を隠そう、結乃は男性経験がまったくない。ひとりだけ、大学生の頃に同い年の男性と交際をしたのだが、キスまではなんとかできたものの、それ以上の触れ合いを許すことにどうにも踏ん切りがつかなかった。

 関係を進めようとしてくる相手に対し何かと理由をつけて逃げ続けた結果、彼との間がギクシャクしてしまい、結局3ヶ月ほどで別れを切り出されることとなったのだ。

 当時は『もっとこっちのペースに合わせてくれても……』なんて落ち込んだものだけど、今思うと充分相手は待ってくれていたとわかるし、自分はかなりひどい態度を取っていたなあと反省もしている。

 たぶん結乃は、実のところその彼に恋をしていたわけではなかった。友人のひとりだった彼から告白され、周囲にはやし立てられてなんとなく付き合うことにはなったものの、結局彼のことは友人以上には見られなかったのだ。

 とまあ、そんなわけで。
 今日まで(不覚にも)守られ続けることとなった結乃の操は、夫である春人に捧げることになるのだけど──。
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