転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~

「黒須先生、新婚生活はどう? 何か困ってることとかはないかしら?」


 児童たちがちょうど5時間目の授業を受けている時間帯。白衣姿の結乃のいる保健室へとやって来たのは、この小学校の校長である土屋(つちや)だった。

 彼女は五十代半ばのふっくらとした体型の女性で、そののんびり口調も相まってか児童たちからも「ゆるキャラみたい~」などと言われ好かれているベテラン教師だ。

 そんなおっとりした印象ながら、しかし校内を回って児童を見つめる眼差しは優しくも少しの異変も取りこぼすまいと鋭い光を湛えていて。管理職となって年数を重ねた今も日々知識の吸収や新たな取り組みにも意欲的な、芯が強く尊敬のできる女性だと結乃は思っている。

 パソコンで先日行った身体測定のデータをまとめていた結乃は、予想外の来客に驚きながらも部屋の中央にある丸テーブルとセットで置かれている椅子を勧めた。
 そうして土屋が切り出したのが、先ほどのセリフである。


「お気遣いありがとうございます。ふたりでの生活にも慣れてきて、今のところはなんとか楽しくやれていますね」


 苦笑を浮かべて答えた結乃に、土屋は「それはよかった」とおっとり微笑んでみせる。

 春人と入籍してから、すでに約3週間。まだまだぎこちない部分はあるが、交際期間0日の新婚生活はそれなりにうまくやれていると思う。

 互いに働いているため、基本的に家事はすべて分担だ。大学生の頃からひとり暮らしをしているとあって、春人はひと通りの家事を卒なくこなすことができる。

 そのあたりの生活力は前世のハルトとまったく違うな、と最初は思ったものだが、料理だけはどうにもセンスがないそうで、できないことはないがあまりやろうと思えないらしい。
< 68 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop