転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 リビングの壁かけ時計がそろそろ19時半にさしかかろうという頃。玄関から聞こえたロックの解除音に、おたまで鍋をかき混ぜる手を止めピクリと反応する。

 次いでドアの開く音が届くよりも早くガスコンロの火を消すと、結乃は急ぎ足でキッチンをあとにした。


「おかえりなさい、春人さん」
「ただいま、結乃」


 靴を脱いでスリッパに履き替えた春人が、玄関まで出迎えにやって来た結乃を見て僅かに口もとを緩める。

 一見わかりにくいとはいえ、自分のいるこの家に帰ってきた彼がそんな顔をしてくれるのがうれしかった。結乃も思わず顔をほころばせ、春人を見上げる。


「夕飯、ちょうどできたところです。今日はシチューとオムライスですよ! あ、お風呂も準備できてますけど、どうしますか?」


 無邪気な笑顔で小首をかしげた結乃を、なぜか春人がじっと見つめた。

 無言のその眼差しに彼女がきょとんとすると、春人は視線を逸らさないまま「ああ、」と口を開く。


「ありがとう。先に夕飯をもらう」
「わかりました。じゃあ、もう食卓の準備しちゃいますね」
「頼む」


 そうして書斎に荷物を置きに行った彼と分かれ、結乃はリビングダイニングへと戻る。

 キッチンでふたり分のオムライスとシチューを器によそい、ダイニングテーブルに並べたところで春人もやって来た。


「いただきます」
「いただきます」


 向かい合ってテーブルにつき、同じタイミングで手を合わせて声を出す。

 基本的に結乃の帰宅時間は春人よりも早いため、こうして夕飯の準備を整えた状態で迎えられることが多い。

 それでもやはり、日によって職場を出られる時間はまちまちだ。結乃はその都度春人の帰宅予想時間と調理にかかる時間を逆算しつつ、献立を考えている。
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