転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 あの日の夜に春人を受け入れられなかったのも、……それでも別々に寝るのはなんだか寂しく思えて毎晩同じベッドで眠るのも、すべて結乃のエゴだ。

 ワガママに付き合わせてしまって我ながらひどい女だとは思いながら、こればかりは譲れなかった。結乃が前世と今の彼を無意識に混同していたことに気づいた瞬間、どうしようもなく自分が恥ずかしくて、春人に対しても申し訳ないと思ったから。

 今のままでは、春人に対して失礼だ。彼の中に『ハルト』の影を探すのではなく、まっすぐに『春人さん』を見られるようになったら、心置きなくこの身を捧げよう。

 自分の妙な頑固さは自覚している。そしてこんな頑固な女は、一般的に男ウケが良くないということも。

 訳がわからないはずなのに、春人はよく付き合ってくれていると思う。好きでもない女のワガママをあまり理由を追及することもなく受け入れてくれる彼は、とても優しい人なのだろう。

 ちら、と正面にいる春人を盗み見る。
 伏し目がちな長いまつ毛。スプーンを口もとへ運ぶ節ばった手。咀嚼したものを飲み込んだときに動く喉仏。
 すべてが見蕩れるほど美しい彼は、まるでテレビの中の俳優のようだ。

 不意に春人が視線を上げて目が合ったから、結乃はドキリと胸を弾ませた。


「そうだ、結乃。来週の土曜は、何か予定はあるか?」
「土曜日、ですか? 何もないですけど……」


 必要以上に驚いた自分を悟られないよう、努めて平静を装って答える。

 すると春人は、僅かに口もとを緩ませた。


「その日は結乃の誕生日だろ? よかったら、一緒に出かけないか?」
「あ……」
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