転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 彼の言葉に、結乃は目を見開く。

 来週の土曜日──4月25日は、たしかに結乃の29歳の誕生日だった。
 ここ最近の慌しさで、自分でも忘れかけていたのに。


「でっ、出かけたいです……! あの、でもどうして、私の誕生日を……」
「そんなに驚くことか? 婚姻届に書いてただろう」
「あ」


 珍しくイタズラっぽい笑みで答えた春人の言葉を聞いて、結乃はかあっと頬を染めた。

 そうだった、自分もそのときに、春人の誕生日を覚えたのだ。
 彼が生まれたのは12月1日。けれど“春のようにあたたかな心の持ち主になって欲しい”との願いから“春人”と名付けられたのだと、教えてもらった。


『まあ、名前負けだけどな』


 肩をすくめてそうつぶやいた彼に、結乃は笑顔で『ぴったりの名前ですね』と迷いなく答えた。

 言われた本人は驚いていたけれど、嘘でもお世辞でもない。結乃から見る彼は、まさにそんな男性なのだ。

 春人はいつだって、結乃の気持ちを尊重して気遣ってくれる。初夜の件はもちろん、それは一緒に暮らす中で常に感じていることだった。

 今だってそう。愛があって結婚したわけではない自分の誕生日を祝おうとしてくれる、その心遣いが本当にうれしくて、こちらの方が胸いっぱいに春のようなあたたかさをもらってしまった。

 たしかに『ハルトヴィン・ラノワール』は自分にとって大事な幼なじみで、それはずっと変わらない。
 だけど今、ともに過ごしている『黒須春人』という男のことを、結乃はまた違った感情で大切に想い始めている。
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