転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
そして、8日後。
「お待たせいたしました。こちらがご依頼いただいたお品物でございます」
笑顔の女性店員が、持っていた黒いトレーを春人と結乃の前にあるテーブルへ静かに置いた。
深い紺色のベルベットが敷かれたその中心には、ふたつのリングが煌めいている。
結乃はトレーの中身をまじまじと見つめ、ほう、と自然にため息をついた。
「きれい……」
頬を紅潮させつぶやく結乃を、隣に座る春人が口もとを緩めながら眩しそうに見る。
テーブルを挟んだ正面の女性店員も、そんなふたりの様子を微笑ましく眺めた。
結乃の29歳の誕生日である、約束の土曜日。
午前中から行動を開始した黒須夫妻がまず訪れたのは、結婚指輪をオーダーしていたジュエリーショップだ。
以前ここへやって来たのは3月の初めだったが、当時担当してくれた店員はふたりのことを覚えてくれていたらしい。顔を見るなり「お待ちしておりました」と個室に案内され、出来上がったリングとスムーズに対面するに至った。
ふたりが選んだのは揃いのデザインのプラチナリング。
フォルムはストレートだが、リボンをやわらかくひねったように2本の線が斜めに走っていて、そのシンプルながら美しい意匠を結乃はひと目で気に入ったのだ。
春人は特にこだわりはなかったらしく、結乃がいいならと結婚指輪選びはあっさりと完了した。
当初、結乃本人は春人と同じく石のないシンプルなタイプにするつもりだった。
元来派手なものを好む性格ではないし、職業的にもあまり華美すぎないように……との理由だったのだが、思いがけなく春人から猛反対にあってしまう。
曰く、「婚約指輪も受け取らないんだから、せめて結婚指輪は宝石付きで贈らせろ」とのことらしく。
彼の純粋な厚意を無碍にはできず、一見まったく同じに見えるふたつのリングの小さな方には、普段は見えない内側にダイヤモンドが埋め込まれている。