転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「……あの指輪交換は、結構恥ずかしかったです……」


 若干うらめしげなつぶやきに、運転席でハンドルを握る春人が一瞬だけ助手席へと横目を向けた。

 助手席に座る結乃はジュエリーショップを出てからずっと、春人から顔を背けるように窓の外を眺めてばかりいる。

 わかりやすく自分を意識しているとわかる結乃のその反応は、春人にとってうれしいものだ。
 けれどもそろそろ声が聞きたいと思っていたので、車が走り出して5分後ようやく彼女が口を開いたことにはひそかにホッとし、口もとを緩める。


「つい。そんなに照れるとは思わなかった」
「つ、ついって……」


 ごにょごにょと返しつつ、顔は未だに春人の反対側にある窓の方向だ。

 こんなとき、結乃は自分と夫との恋愛経験値の差を痛感する。

 彼が過去に、どれだけの女性と付き合ってきたのかはわからないが……きっと今回のように、ジュエリーショップでアクセサリーをプレゼントすることもあったのだろうと思う。
 そう考えたとき、胸の奥がズキンと痛んだ気がして思わず胸もとを左手で押さえた。

 春人の持ち物であるダークグレーの国産高級車を手馴れた様子で運転する横顔は、見蕩れるほど美しい。
 対して自分は、別段美人でもかわいらしいわけでもない、いたって平均的な容姿だと思う。

 今日は春らしいあたたかな気候で、白のノースリーブニットに淡いブルーのデニムジャケットを羽織り、ペールピンクのシフォンプリーツスカートを合わせた。
 清潔感のある綺麗めなカジュアルスタイルを心がけたつもりだが……この格好で彼の隣にいるのは、浮いていないだろうか。

 春人は杢ブラックのニットに白いパンツとシンプルな服装ながら、それだけで人目を惹く魅力がある。
 そんな彼の隣に並ぶ女性として相応しくいられているのか、よくわからない。
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