転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
(考えてみれば、前世でも今も、こんなに特別な人とかかわれることは奇跡だ……)


 こんなことを思う自分は、一体どんな顔をしているのか。

 すぐ左横に見えるサイドミラーをチラリと確認すると、そこには今にも泣き出しそうな情けない表情の女がいた。
 結乃は慌てて、両手で頬を覆う。


(やだ、こんな顔、してるなんて)


 前世の結乃は、彼と自分の容姿を比べてここまで落ち込むことはなかった。
 けれど今。こんなにも、違いを気にしてしまうのは──?


「結乃。あと5分くらいで着く」


 かけられた声にハッとして、反射的に首をめぐらす。
 ちょうど、赤信号で車は停まっていた。運転席の春人が、ハンドルに軽く両腕を預けながらこちらに顔を向けている。

 ……見られていた。
 そう思うと、じわりと顔に熱が集まって、彼と目を合わせていられなくなる。

 恥ずかしい。いい大人が、こんなことで動揺するなんて。


「そうですか。楽しみです」


 こっそりと小さく息を吐いてから、笑顔を作って春人へと向けた。

 ハンドルに置かれた彼の左手の薬指には、真新しいリング。結乃の同じ手につけているものと対になっているそれは、自分たちが夫婦であることの証だ。
 それを見つけた瞬間、さっきまで胸の中に燻っていたモヤがなぜか急に晴れて、心が軽くなった気がした。

 その理由に、彼女はまだ気づかない。
< 79 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop