転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 ジュエリーショップから車で15分程度。

 たどり着いたのは【五月女(さおとめ)武修館(ぶしゅうかん)】という木製の看板が掲げられた、瓦屋根の重厚な建物だ。

 年季の入った木製の引き戸を開けて中へと進む春人に続き、結乃もドキドキしながら足を踏み入れる。


「おはようございます、黒須です。先生いらっしゃいますか?」
「おお、春人。おはよう」


 春人が声を上げると、玄関のすぐ向こうに見える広い部屋から高年の男性がひょっこりと顔を覗かせた。

 そこで春人は、自分の背後に立つ結乃が見えるよう少しだけ身体をずらす。


「結乃。こちらは俺が昔から剣道の指導でお世話になっている、館長の五月女先生だ。先生、妻の結乃です。ご挨拶が遅くなりましてすみません」


 その瞬間結乃は背筋を伸ばし、頭を下げる。


「はじめまして! 黒須結乃と申します。本日はご無理を聞いていただきありがとうございます」


 土曜は本来、稽古のない日だと聞いている。
 緊張した面持ちの結乃を見て、道着姿の男性はにこやかな笑みを浮かべる。


「いえいえ、今日を楽しみにしていました。さ、こんなところで挨拶も何ですから、どうぞ中へ」
「は、はい……!」


 カチンコチンに身体をこわばらせている結乃に春人が声もなく笑いながら、革靴を脱いで玄関を上がった。

 彼に倣い、結乃もパンプスを脱いで靴箱に揃えて置く。
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