夜には約束のキスをして
 普通の人なら、まさか口づけひとつで長く続いた高熱が引くわけがないと一蹴しそうなものだ。しかし、ことそれがこの土地――異能の人々が住まうあやしの集落では、そう軽はずみに断言できない事情があった。異能を持つ者たちにおいて、精神と身体の結びつきは常人よりも遥かに強く、心のゆらぎがたやすく体調を左右することもあるのだ。また、精神に宿るといわれる霊的な力は、己の身体のみならず、外界や他者にまでも影響を及ぼすことができると、集落の者なら誰もが心得ている。
 たかが口付け、されど口付け。その行為をとおして、深青の精神にどんな影響があり、和真と深青の間でどんな霊的な力のやりとりがあったのか。それは、和真が一人で判断できることではない。けれど、常識を備えた大人二人を前にして、子供である自分たちが口づけなる行為に至ったことを白状するのは、多大なる勇気を要した。
 口ごもり、ためらう和真に心当たりがあることを察したのだろう、医者は優しくうながそうとする。

「今後また同じことがないとはいいきれません。深青さんがまた苦しまなくてすむように、気づいたことはなんでも教えてくれませんか?」

 深青のためにと言われれば、和真は素直に口にするしかなかった。

「…………深青に、キスを、されました」

 まあ、と吐息のようなかすかな声が美里から漏れた。予想を裏切らないその反応に、和真の羞恥は増す。言い訳するように言葉を重ねた。

「いや、でも、あのときの深青は……なんだか様子がおかしくて。すごい力でいきなり、引き寄せられて……気がついたら、深青の熱が下がってたんです。ぼくにも、なにがなんだかよく分からなくて……こんな話で、役に立ちますか?」
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