転生侍女はモブらしく暮らしたい〜なのにお嬢様のハッピーエンドは私に託されているようです(汗)
深夜、もうすぐ日付が変わろうかという頃、王太子クリストファーはまだ仕事をしていた。

王城の大邸宅の二階にある彼の執務室は、藍色とワインレッドで統一された調度類が並び、部屋の中央に置かれた執務机はウォールナットの深い色合いが美しい。

机に向かって政務の関係書類に目を通し、サインや指示を書き込んでいたら、ドアがノックされた。

「入れ」

誰と聞くことはない。

こんな時間にこの部屋を訪ねるのは、近侍のオズワルドしかいないからだ。

「失礼いたします」と入り、律儀に一礼したのは、やはりオズワルド。

「殿下、そろそろお休みください」と言われるのもわかっていたことだ。

クリストファーは手元の書類を読みながら、「ああ」とおざなりな返事をする。

それから、ふと顔を上げた。

「なんの香りだ?」

こちらに歩み寄るオズワルドからは、香水ではない、なにかを燻したような匂いが微かにする。

「香り……防虫香でしょうか。先ほどまで宝物庫にこもっておりましたので」

五階建てのこの建物のど真ん中、三階の中央棟に宝物庫がある。

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