転生侍女はモブらしく暮らしたい〜なのにお嬢様のハッピーエンドは私に託されているようです(汗)
そんな研修期間の精神面を支えてくれたのが、乙女ゲームであった。

乙女ゲーム、すなわち恋愛シミュレーションゲームは、実生活で恋とは縁遠い恵麻に夢を見させてくれる存在だ。

ぽっちゃり地味女子でも、イケメンキャラたちが熱い眼差しを向け、甘い言葉を囁いてくれる。

そのトキメキにはまった恵麻は、高校生の時から何本も乙女ゲームをやり込んだ。

新人研修が始まったのと同時期に発売となったのが、『王宮ファンタジー・ブルーローズ伝』、通称『ブルロズ』だ。

発売予告から半年ほどもワクワクして待ち続けたこのゲームを入手した時、プレイ前なのに興奮して鼻血を出したほどである。

苦手なランニングで体が悲鳴を上げていても、心をブルロズの世界に逃がすことによってなんとか研修に耐えていた。

しかし……。

六月中旬のとある日。

ランニング中に恵麻は倒れてしまった。

湿度八十パーセント超えの蒸し暑さで、どうやら熱中症になってしまったようだ。

(異常な動悸がして苦しい。なにこれ。もしかしてクリストファー王太子のことばかり考えてドキドキしていたから、私の心臓が壊れちゃったのかな……)

享年十八歳。

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