飼い犬は猛犬でした。
あれ、やっぱり怒って……る?
どこか冷めきった目で、わたしではなく自分の指先を眺める涼輔くん。
沈黙の時間が痛いほどつらい。そう感じ始めた頃、先に口を開いたのは涼輔くんだった。
「……天音さん」
こっちのわたしの名前を呼ぶ涼輔くんの声には若干の怒りが含まれている気さえした。
「ど、どうしたの……?」
「俺が来た時、なんで逃げたんすか」
「え……」
バレてた……?! でもなんで、目も合ってないのに……
「そんなに俺が嫌いっすか」
「違う、そんなことない……ただ……」
あっ……
そう思った頃にはもう時すでに遅しで、涼輔くんは”ただ”のその先を待っている。
「わたし、初めての彼氏に酷いことたくさん言われて……それから自分に自信がないの。……だから、涼輔くんがわたしなんかを好きだって信じられなくて……ごめんなさい」
ここで嘘をついて涼輔くんを騙したくない。そう思い全て正直に話した。
こんなこと……言うつもりはなかったのに。