飼い犬は猛犬でした。
「でも、涼輔くんは人気だから、わたしじゃなくても……」
「やだ、天音さんじゃなきゃ……嫌です」
そんな目で見ないで……期待してしまう。
あの、学校での涼輔くんを知ってしまったから……
誰にでも優しい涼輔くんを、知らないままでいたかった。
だけど、今もわたしの頭に乗せられた涼輔くんの手が温かくて……鼓動が鳴り止まない。
こんなに、胸の鼓動が聞こえそうなほど近いのに、涼輔くんが何を考えてるのか分からない。
「もっと天音さんと居たいけど、早く帰んないと怒られそーなんで、今日は帰りますね」
「あ、ごめんね……いつも来てもらって」
「俺が会いたくて通ってるんすよ。そんな申し訳なさそーな顔しないでください」
涼輔くんは微笑んだ後「また来ます」とだけ残して店を出ていった。