時には風になって、花になって。
人間の寿命は80年余りだということ。
そして病気や災害で簡単に命を落とすということ。
それを知ったとき、既に青年は1人の女を待ち続けて数百年が経っていた頃だった。
『…そうか、死んだのか』
まるで脱け殻のようだった。
心にぽっかりと穴が空いたような。
打ち付ける雨はどこから流れているのだろう。
それまで身に付けていたキラキラと輝く装飾品だって、ただの灰色の石にしか見えなかった。
『綺麗ね』なんて笑ってくれるお前が居なければ何の意味もない。
『許さんぞ紅覇。これ以上我に恥をかかせるつもりか』
装飾品を全て取っ払って、狩衣と袴のみとなった息子の前にその男は立ちはだかる。
この鬼の城を出る───そんな紅覇の噂は瞬く間に広まった。
『まだくだらんことを言ってるのか。人間と分かち合うなど』
『そんなことはどうでも良い』
『だったら何だと───…ッ!』
目の前の男は息を飲んだ。
すぐ目の前、突き出された長い爪は羅生門の左目を抉り取った。