時には風になって、花になって。




先に浸かっていた紅覇の元へ、少ししてから現れた少女。


腕に深手の引っ掻き痕があったはずなのだ。

痛々しい傷だったからこそ、こうしてわざわざ治癒効果のある湯へと向かったというのに。


そこにあったはずの傷は綺麗に塞がっていた。



「湯に浸からなくとも効果を発揮するというのか」



いやそんなはずはない。

同じ湯に浸かる他の妖怪だって、この湯に浸かってから少し経って傷が治っている。



(わかんない)



少女も首を傾けた。


人の子を知らないからこそ紅覇にも分からなかった。

自然な治癒能力というのは、自分のような上級の妖怪にしか備わっていないと思っていたからこそ。



「お前は本当に…変わった娘だ」



笛が無かったときの方が私の名前を呼んでいた。

渡した途端に減り、そして最近になって特に知らない顔をするようになった。


鬼である自分ですら何を考えているのかが上手く読み取れない。



(わぁ!お星さま!!)



変わったのはどちらか。

私か、お前か。



「サヤ、転んでも知らんぞ」



ツルッ!ドテッ!!



「…阿保」



そうして今日も夜が明けてゆく。








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