時には風になって、花になって。
「あんた!なにを無視してんのさ!」
先程からおーいおーいと背中の方から声が聞こえていた。
ある村へと立ち寄った紅覇とサヤが呼ばれているとは分からなかったから気にしていなかったけれど。
1人の女は小走りに駆け寄って、紅覇の肩をポンッと叩いた。
「…誰だ」
「あたしだよあたし!ほら、その娘を看病してやっただろ?」
大きくなったねぇ───と、まるで親のように青年の隣に立つサヤを見つめた。
看病…?
サヤ、この人を初めて見るけれど…。
「あんたは熱出して寝てたからね。知らないのも当たり前か」
その女は長松(ながまつ)といった。
彼女も個人的な野暮用でこの村に出かけて来ていたらしく。
浅い立ち話をしている途中、女は何かに気づいたように紅覇に「ついて来て」と言った。
「断る」
「おいおい、まさか恩を忘れたわけじゃないだろうね?」
「…なんだ」
紅覇はどうやら弱味を握られてしまったらしい。
サヤは熱を出していたから、全然覚えていない。