時には風になって、花になって。
「サヤ、今日はここに泊まるぞ」
紅覇は立ち止まった。
1つの旅館の前、ムッと口を尖らせる私を気にすることなく中へと進んでしまうから。
その腕を掴んで引き留めた。
(サヤ、外がいい!)
最近ずっとこうだ。
どうしていつもいつもお金のかかる旅館で寝泊まりするのか。
昔は野宿が当たり前だったというのに。
「…野宿は極力しないと言っただろう。お前はもう子供ではない」
(だからこそ、だよ!)
「だからこそ、だろう」
同じ言葉を返してきた。
これじゃあ会話にならない。
なに言ってるの?と見つめてみても、ため息を1つして聞いてはくれない。
(はいる!!)
「駄目だ」
どうして、と意味を込めて笛を力強く響かせた。
「…どうしてもだ」
そんなの理由になってない。
せっかく温泉があるんだから一緒に入ろうと言っただけなのに。
どうしてか紅覇は意地でも首を縦に振ろうとはしない。
旅館に泊まることを了承したんだから、私の言うことも聞いてくれたっていいのに。
(昔は入ってた!!)
「…前は子供だったからだ」
ほら、またこれだ。