時には風になって、花になって。
「私はお前を心配しているんだ」
音は止まった。
心配…?どうして…?
「…子供ではないということは狙われやすくなるということだ」
狙われる…?
だってサヤ、今までだってそんなの何回もあった。
それでもサヤだって馬鹿じゃない。
紅覇と生活して、熊や猪に目を付けられない術はしっかりと身についている。
「お前が知らない男に触れられると思うと私は…」
(私、は…?)
サヤはその次の言葉を待った。
静かな空気の中、縮まった身長差がどこか恥ずかしく感じる。
(紅覇、“私は”…なに?)
女より綺麗な鬼を前に、目を惹かれてばかりだった。
どちらかというと紅覇の方が危なそうなのに。
「───そいつを焼き殺してくれる」
撤回。
全然違う意味でこの男の方が危険だった。
そしてギロッと、無表情なまま睨みを効かせてくる。
「分かったら大人しく湯を浴びて来たらどうだ」
(は、はい)
ぎこちなく背中を向けたサヤにもう1度声がかかった。
「はしゃいで転ぶなよ」
(サヤ、もう子供じゃない!)
ピーーーッ!!と笛を吹いた。
「全く。…子供扱いしても言うのか」
そんな妖怪の苦悩をサヤは知らない───。