悪役令嬢には甘い言葉は通じない。



外の空気を吸って落ち着こうとバルコニーへと出ると空はもう夜に支配されつつあり、街はオレンジ一色の明かりで染められている。


今夜は年に一度開催される『ハロウィンナイト』という祭りで大賑わいをしている頃だろう。


今日の縁談は、相手の自慢話が長かったせいで退勤したい侍女達は私が部屋に戻ってくるのを今か今かと待っていたに違いない。


こうなるのが分かっていれば、わざと相手の自慢話を引き伸ばしてやったというのに惜しいことをしてしまったのかもしれないわね。


まあ……あの自慢話は流石にずっとなんか聞いていられないから無理だったのでしょうけど。


街の祭りで彼女達はどんな一夜を過ごすのだろうと考えるけれど、用がない限り屋敷の外には出して貰えない私には想像も付かない世界が広がっているのでしょうね。


煌びやかなシャンデリアがホール全体を照らし、磨きあげられた大理石の床で踊るワルツと愛想笑いばかりが浮かぶパーティーなんかよりも遥かに素敵なもの。


「……私も行ってみたいのに」


お父様に言ったところで私には許しは与えられない。


伯爵家の令嬢だから、私はこの屋敷の外には出ることはできない。

私に仕える者達の目を盗んで外に出てみようと企んだ日もあったけれど、迷子になるのが分かりきっていたしその勇気は湧いてこなかった。



「毎年毎年……侍女達のお土産話が楽しみなんてバレたら、伯爵令嬢失格かしら」



楽しそうに話す侍女達の祭りの出来事はとてもとても面白くて、楽しそう。


たった一日街に行って、その祭りを肌で感じられたらどれだけ幸せだろうか。


宝石も絹で出来たドレスも高級な食材で作られた食事も、お父様に言えば何でも手に入るのに。


街に行くというお金が発生しないことだって言うのに、それだけは許されない。


幼い頃からずっと無理なワガママを言っても全部叶えてくれたのに、どうしてこれだけは叶えてくれないのかしら。






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