悪役令嬢には甘い言葉は通じない。
昔、気に食わない侍女がいたら辞めるように意地悪を仕向けたことがあったから?
それとも縁談中にお相手男性の悪口吐いちゃうから?
どれにしたってもう取り返しのつかないことをしているのは事実だから、お父様は許してくれないのでしょうね。
もしかしたらあの街に、私が心に決めた人がいるのかもしれないのに。
あの街で一緒に今日という日を一緒に過ごせたら、どれだけ幸せなのだろう。
大きなため息を着きながら、バルコニーの柵に体を預けてキラキラ輝く街を見つめた。
「街ではどんなダンスをするのかしら。ワルツのようなゆったり……なんてあの侍女達の様子からしてそれは無さそうよね」
「そんな煌びやかなものは出来やしないよ」
「そうなの……って、だ、誰なの?!」
独り言ちる私にこんな場所で声が掛かるなんて予想外なこと起きたことがなかったせいで、どう反応していいのか分からずにとりあえず声の主の姿を探す。
バルコニーから身を乗り出すように下を見下ろすけれど、人の姿はどこにも見当たらない。
行きたいが故に変な空耳でも聞こえてきたのかしら、と小さくため息をついた。
「こっちだよーーようやく会えたね、可愛らしいお嬢様」
再び聞こえたその声に後ろを振り返ると、屋根の上に腰掛ける一人の男性の姿がそこにあった。