メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
玲央が杏花にギャラが入っているらしい社名入りの封筒を渡す。

「キョウ、あとこれ、あげる。モデル記念。」

そう言って玲央が杏花に差し出したのは草花をモチーフにしたリングだった。杏花は戸惑った表情で『でも・・・。』と封筒に目をやる。

「それとは別。このリング、すごく気に入ってくれてたでしょ。俺的には今回の一番の自信作なんだけどさ、レミもツムも他のやつの方がいいって言うし、キョウが気に入ってくれて嬉しかったからさ。販売用に同じデザインのものいくつか作ったしこれからも作るけど、やっぱりハンドメイドだから一つ一つ表情が違う。ここにあるこれが一番俺が表現したいものを表現出来たリングで、これ以上のものは作れないと思う。すごく似合ってたし、キョウにつけてほしいんだ。」

玲央はいつになく真剣な顔でそう言ってひざまづくと杏花の左手をとり、中指にリングをはめた。まるでやんちゃな王子が姫にプロポーズをしているみたいで、映画やミュージカルのワンシーンのように綺麗だった。

目の前でそれを見せられて、心の中で何かがふつふつと沸き上がる。いや、ふつふつどころではなく、ぐつぐつ、いや、ぐらぐらと言った方が正しい。

「薬指にはめたらハルに張り倒されるからね~。ただでさえ朝っぱらからレミの逆鱗(げきりん)に触れちゃったから気を付けないと。お~クワバラクワバラ。」

そう言いながら玲央は楽しそうにニヤニヤした。

「何言ってんだ。お前・・・。ほら、とっとと行くぞ。」

心の中で煮えたぎるものの存在を嫌というくらい感じながら杏花の手をひいて足早にアトリエを出ようとした時、まだニヤついている玲央に声をかけられた。

「階段通り過ぎて突き当たりまで行ってみ?いい場所あるから。」

「いい場所って?」

杏花が聞くと玲央は『乞うご期待♪』と言って鼻歌を歌いながら部屋の奥に戻って行った。
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