メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「どうして、来てくれたの?こんなに朝早くに。」

廊下に出ると杏花がじっと見上げて聞いてきたので慌てて目を逸らす。

「いや、その・・・あ、魚河岸に行った帰りについでに寄っただけだ。」

「魚河岸?何しに?」

「えーとだから、あ、次の作品の参考資料としてピッチピチの新鮮な魚が必要だったんだよ。だけどな、朝早い時間は一般客は相手にしてくれないみたいで。」

───資料としてピッチピチの魚が必要な時計ってなんだ!?猟師の船や水族館や寿司屋にでも置くのかよ。

下手すぎる嘘にセルフ突っ込みをかましていると、杏花はくるんとカーブしたフサフサまつ毛の下の瞳を輝かせた。普段は付けない付けまつ毛を付けていて、まぶたの上も瞳同様キラキラ輝いている。

「じゃあ、今度はもっと遅い時間に行くの?私も行きたいな。」

「う・・・まぁ・・・予定変更してその作品作らねーかもしれないけど、行く時は連絡するよ。」

「楽しみにしてるね。」

彼女がいつもより濃く色づいた唇から発したその言葉は決して特別なものではなかった。しかしメイクと眠そうな様子が相まってアンニュイな雰囲気をかもし出す彼女は何とも色っぽく、それがついに俺の心の中の猛獣の檻を木っ端微塵に吹き飛ばした。

彼女に触れたいと思う気持ちは日々溜まりに溜まっていた。更に先程の玲央のプロポーズもどきにより大いに挑発されて、檻の中では腹を空かした猛獣が暴れていたのだ。

「・・・本物、つけてやろうか。」

「え?」

俺は抑えた声で言うときょとんとする彼女の首の付け根辺り───メイクのキスマークがついている部分───に服の上から触れた。
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