メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
無意識に玲央が言っていた『いい場所』が頭の中に浮かんだ。杏花の手を引き廊下の突き当たりまで引っ張っていく。あいつの(てのひら)の上で転がされているようで悔しいが、今そんなことはどうでもいい。

そこにはロビーと呼ぶには狭い、どちらかというと横長の空間があった。椅子や自動販売機などもないガランとしたスペースだ。廊下を進んで近づいてくる時、地下なのに突き当たりに光が溢れており、どうしてだろうと思っていたのだが、来てみると正面の窓の向こうに坪庭があったので、なるほどと思った。

天井まである窓は幅5~60cmの普通の窓とステンドグラスになっている窓がストライプのように交互になっていた。ステンドグラスの窓の前まで行き、高さ8~90cmくらいの出窓のようになっているところに杏花を座らせた。背中に太陽の光を浴びている。

今から俺が彼女にすることはとてもじゃないが人のマンションですることではない。監視カメラだってあるかもしれないし。今まで人前でいちゃつくカップルを見ると『家でやれよ。』と思っていた。恋人がいても外で触れたこともない。手すら繋がなかったので彼女が寂しそうにしているのはわかっていたけれど、恥ずかしくて嫌だという自分の気持ちを優先してしまった。なんて身勝手な男だ。

さらに今は付き合ってもいない女に触れようとしている。つくづく自分が嫌になる。でも彼女に触れたいという気持ちはそんな嫌悪感をも飲み込んで膨れ上がり俺の体を支配していた。

繋いだ手に玲央がプレゼントしたリングが当たるのが気になっていた。同じ左手には俺があげた雪うざぎの腕時計をしていた。

「・・・このリング、外してもらってもいいか。気に入ってるとこ悪いけど、今だけでいいから。」

「うん。」

『どうして?』と聞かれると思ったけれど彼女は素直に頷いて、背負っていたランドセルのような形のブラウンのリュックを下ろし、白くてふわふわした小さな丸いポーチを取り出すとリングをしまってリュックに戻した。そしてリュックを横に置き、両手を膝の上に置いて俺を見上げた。
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