メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「いや~、まさかあんなことになるなんてね・・・。」

二人が出て行った後ロッカーから出ると店長は『参った。』と言うように頭を掻いていた。その言葉と仕草とは裏腹になんだか楽しそうな彼に『はい・・・。』と小さな声で返す。

さっきの竹中さん達の言葉や二人が触れ合う音が耳と心から離れない。あれが恋人同士の触れ合い・・・当たり前だけれどドラマよりずっと生々しかった。

「杏花ちゃんてさ・・・。」

その言葉に俯いていた顔を上げると店長がロッカーの前に立つ私を振り返っていた。

「見た目ふんわりしてるし人懐こいけど、実は心の表面のすぐ下に壁があるよね。杏花ちゃんが泣いたり怒ったりドキドキしたり、そういう剥き出しの感情を出しているところが見たいと思ってたんだ。」

「店長・・・。」

「今ドキドキしてるよね?俺に、じゃなくて、竹中くん達が原因だと思うと悔しいけど・・・俺はロッカーの中でずっと杏花ちゃんのこと見てたけど、杏花ちゃんは俺も一緒にロッカーにいることなんて忘れてたでしょ?でもそんなに真っ赤になって・・・すごくかわいいよ。杏花ちゃんのそんな顔見られるなんて竹中くん達に感謝だね・・・色々想像しちゃったの?」

恥ずかしいことを考えていた心の中を覗かれたようでますます頬が熱くなってくる。

「店・・・高園さんて・・・実は結構意地悪なの?」

「そう。俺、草食系と見せかけて実は肉食系だから。ハロウィンは化ける日なのに逆に正体ばれちゃったね。別に隠してるわけじゃないんだけど。」

店長はそう言いながらじりじりと近づいて来る。慌てて後ずさりすると背中がロッカーにぶつかり、さっきこの中にいた時に聞いたのと同じ音を立てた。
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