メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「・・・いっ、いいの?今日クリスマスイブなのにあの子と会わなくて・・・。」

「・・・あ~、今日イブか。」

「は!?今知ったわけ?」

「ああ。いつも当日より随分前からメリークリスマスだなんだって騒いでるから、いつが当日なんだかよくわかんなくて。確かに最近増えてた時計の注文もぱたっと減ったもんな。」

「・・・何よ、今日ダメ元で連絡したら会ってくれるって言うから、ちょっとだけ期待したのに。」

「え?」

「何でもないわよ・・・。」

頬を膨らます玲美の向こうのテーブルでは学生らしき若者達がメガ盛ポテトをバクついている。玲美はこの大衆居酒屋では異彩を放っていた。

「玲美もこういう居酒屋とか来るんだな。もっと洒落たところに行きそうだから意外だった。」

「イブだから普段行くようなお店は空いてないのよ。他の男とだったらこんなお店ごめんだけど、ハルとだったらどこだって・・・屋台のおでんだっていいわよ。」

さっき膨らんだ玲美の頬が今度はほんのりと赤くなった。

「・・・玲美、何度も言うけど俺、悪いけど玲美のことは・・・。」

「言われなくてもわかってるわよ。でも、今日来てくれて嬉しかった。ありがとね。」

「おお・・・。」

くるんとカールした長くてふさふさしたまつ毛の下の大きな目を伏せていつになくしおらしく言われ面食らってしまう。

杏花のまつ毛は量は多めだったけれど、長くはなくカールもしていなかった。でもその下がったままのまつ毛がアイラインの役目を担っていて、そのナチュラルな横顔が好きだった。
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