メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「杏花、明日美容院の着付け終わったら連絡してね。お父さんと迎えに行くから一緒に大学まで行こう?友達とどこかで待ち合わせしたりしてる?」

「ううん。特にしてないよ。友達とは大学で会う。お母さん達、卒業式の後そのままスウェーデン出張行くの?」

「うん。お父さんは2回目だけどお母さんは初めて。お土産たくさん買ってくるね。」

「楽しんできてね。あ、旅行じゃなくてお仕事か。」

「お仕事で行くの、とても楽しみだよ。スウェーデン支社長になった先輩達や関西支社の人達に久しぶりに会えるし、向こうのおしゃれな雑貨を見たりとか、素敵な街並みや風景を見たりとか、これからの仕事に確実にプラスになってもっと仕事が楽しくなるはずだし。」

お母さんは決して器用ではないけれど何事にも貪欲で熱い気持ちを持っていて、仕事の話をする時もいつもとても楽しそうだった。そんなお母さんが私にはずっと眩しかった。

「・・・私もお母さんやお父さんみたいに生き生きと楽しく働けるといいな。」

「きっと楽しく働けるよ。バイトだって楽しそうにやっていたし。」

「そうだといいな。」

そう返すとお母さんはしみじみとした表情になった。

「杏花も大学卒業して社会人になって、もう完璧に大人だね。」

「・・・。」

「杏花?」

「・・・私、全然大人になれないよ・・・だって自分で一歩踏み出すって決めたのに、気持ちをぶつけて受け取られずに跳ね返ってくることを想像すると怖くてたまらないの。」

こんな風にお母さんに自分の気持ちを話すのは初めてだった。お母さんもお父さんも私の気持ちを無理に聞き出そうとしたりはせず、いつも優しく見守っていてくれたから。
< 228 / 290 >

この作品をシェア

pagetop