フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約
マンションに帰ると真宮さんは寝室に向かい、小椋さんはエントランスホールでおやすみなさい、と帰宅を告げた。
「それじゃあボクは帰りますね。ご馳走さまでした」
ペコリとバカ丁寧にお辞儀をした彼に合わせて、慌てて私も頭を下げた。
「色々ありがとうございました」
「いいえ~あ、そう言えば伝え忘れてました~」
ぽん、とマンガみたいに本当に手を鳴らした小椋さんは、声をひそめて私に顔を寄せる。
「あのですね……うちの会社に、社長の婚約者って女性が乗り込んできたんですよ」
「……え?」
寝耳に水、ってこのことかもしれない。
偽の結婚相手を探してるって言ってたけど……元々きちんとした婚約者がいた!?
(それじゃあ……私が恋人とか婚約者とか……しかも同居してるって……まずいんじゃ)
社会人経験が浅い私でさえ、真宮さんの立場が悪くなると容易に想像できる。
謎めいた若きIT企業の社長が……実は二股なんてスクープでもされたら、とんでもないスキャンダルだ。
「あ、大丈夫ですよ~社長は一切合切微塵も認めてないし、抱きついてきた女性に“アンタ誰?無関係な部外者は出ていけ”と警備員呼んだし、警察に不法侵入で通報しようとしたくらいだから。本物の婚約者なら、そこまでして追い出したりしないでしょ~」
小椋さんの話を聞いて、ホッとしたと同時にさすが真宮さんと笑えてしまって。
「そうそう。同棲までしてる本物の恋人であるさくらさんの立場は揺るぎないですよ!安心してどっしり構えていてください」
小椋さんの言葉を(私も偽の……だけど)と曖昧に笑ってやり過ごした。