フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約

(和彦!?)

レジデンスのエントランスホールに繋がる正面入口には、左右に植え込みがある。その縁に腰かけていた人は確かに和彦で、私を見つけた彼はすぐに立ち上がったけど。一瞬顔を曇らせたのを、私は見逃さなかった。

和彦の連絡先は全て削除したし、ブロックしたから直に連絡はつかない。だから、こうして待ち伏せしたんだろうけど……なぜ、私がここに暮らしていると知ってるんだろう?

唯一知らせた香澄にはまだ誰にも教えないでと伝えたから、彼女から漏れるなんてあり得ないし。

それより……和彦にどう対応しようか、と悩む。
無視しようか、とも考えたけど。会社の同僚だし、何より親友の香澄の婚約者。ここでスルーしたら社会人として失格だ。

とはいえ、彼のペースでいつものように主導権を握られたくない。だから、先に私から声をかけた。

「佐々木さん、こんばんは。今日は仕事の関係で職場に行ってらしたんですか?」
「……こんばんは……」

和彦はチラッとお母さんを見る。明らかに邪魔そうだ、とわかってわざと無視できないよう大袈裟に紹介をした。

「お母さん、会社の同僚の佐々木 和彦さん。香澄の婚約者だよ」
「あら、まあ! 香澄ちゃんの……初めまして、さくらの母の春日井 ゆりです。さくらがお世話になっております。香澄ちゃんとのお話もかねがねおうかがいしておりますわ」
「……いえ、こちらこそ」

お母さんのおばさま特有のパワーに、さすがの和彦も困惑ぎみだったみたいだ。

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