バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
 どうしたものかと考えていると、私の名を呼ぶ声がした。

「星崎さんはどちらでしょうか」

「はい、私です」

 振り向くと、そこには見慣れない男性がいた。

 ストライプ柄の白いバンドカラーシャツに、幅広のゆったりとした白いスラックスといった格好で、いくら我が社の仕事着がカジュアルとはいえ、ずいぶんと個性的だ。

 おまけに、ツーブロックの髪の頭頂部がレインボー柄に染め上げられている。

 うちの会社にこんな人いたっけ?

 その男性がエレベーターホールの方を指した。

「社長からうかがってます。一緒に行きましょう」

「どちらへ、ですか?」

「上のラウンジで社長がお待ちです」

 うながされるままについていくと、その男性はセンサーにカードキーをかざして高層階行きのエレベーターを呼び出した。

 すぐにやってきて、扉が開く。

 男性が先に入って私を招き入れてくれた。

 一般向けのエレベーターとまったく異なる内装に驚く。

 壁面は天然木を使用した寄せ木細工になっていて、天井の四隅からの間接照明が全体を落ち着いた雰囲気に包みこんでいる。

 背面の鏡は絵画の額縁のような装飾が施されていて曇り一つなく磨き上げられている。

 まったく揺れずに上昇していくけど、自分のような庶民には、かえって居心地の悪いエレベーターだ。

 と、鏡を見ていたら、後ろから手が伸びてきて私の毛先をなでた。

 え!?

 何?

 着替えのスーツを抱えていて、払いのけることができなかった。

 鏡の中の驚いた表情の私に向かって、背中から声がする。

「ああ、すみません。私は新羅社長を担当している美容師で平木と申します。星崎さんのヘア・アレンジも頼まれましてね」

 社員じゃなかったのか。

 だからって、まぎらわしいことしないでほしい。

「髪質はいいんですけど、毛先が少し痛んでますね」

 まあ、ふだんから、そんなに気をつかっているわけではないからしかたがないだろう。

「でも、ボリューミーで艶もあって、少し毛先をカットして遊ばせたらとてもいい具合になりますよ」

 どちらかというと私の髪は太くて重たい。

 だからあんまりアレンジのバリエーションなんかなくて、いつも同じ髪型で通してきた。

 でも、鏡の中の美容師さんは私の髪を見つめながらイメージができあがっているようだった。

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