バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
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ラウンジの奥の方にある個室スペースにゲストを招き入れて、各々がソファに座ったところで、係員からシャンパンを預かってきた山中先輩がテーブルの上にグラスを並べた。
「大里さんはシャンパンでよろしいですか?」
社長が念のためたずねると、大里選手が大げさに手を広げた。
「はい、引退したので、今日からはなんでも飲みますよ」
「お疲れさまでした」と、美咲さんが微笑みかける。「五年前と体型が全然変わってませんよね」
「いやまあ、最近は維持するだけでもかなりきつかったですけどね」
アスリートがコンディションを維持するのは相当大変なことなのだろう。
大里選手は五年前にミケーレさんがオーナーになっているイタリア一部リーグのチームに所属していたことがあったのだそうだ。
ヨーロッパで活躍する選手もすごいし、そのスーパースターが在籍していたプロサッカーチームを所有する富豪というのも、どちらも私には想像がつかない別世界の人たちだ。
「では、乾杯!」
社長がグラスを軽く掲げて、みながシャンパンを口にする。
「お二人もどうですか」とミケーレさんが私たちの方を向いた。
「いえ、私どもは」と、山中先輩が丁重にお断りする。
すると、美咲さんが先輩に向かって気さくに声をかけた。
「亜莉沙、遠慮しなくていいじゃない」
居合わせたみながお互いに顔を見合わせる。
社長が美咲さんにたずねた。
「お二人は知り合いですか」
美咲さんがうなずく。
「ええ、私が昔働いていた会社の同期だったんです」
山中先輩も気まずそうにうなずいている。
前の会社の同僚ということは、美咲さんはもしかしたら私の先輩だったかもしれないわけか。
ちょうど私の新卒入社と入れ替わりといった時期だったようだ。
ずいぶんと意外なつながりがあるものだ。
「亜莉沙は同期の中でもずば抜けて優秀で、私もよく助けてもらってたんですよ」
ほめられているのに、先輩の目が泳いでいる。
こんな先輩を見るのは初めてだ。
それにしても、美咲さんはふつうの会社員だったわけで、そんな人がイタリア人の富豪と結婚って、なんだか小説の世界みたいだ。
どこでどうやって知り合ったんだろう。
興味はあるけど、今ここで私が口をはさむわけにはいかない。
無関心なふりを装って私は黒子に徹していた。